Carpe diem -ツインソウルへの考察-

暫定ツインソウルの2人がそれぞれ感じていることを書き連ねます。

ソウル日記 ①

「こっちを見ないで。目を合わせないで。喋りたくない。」

冷酷な目でそんなことを言われる。冗談ではないことは私にも分かる。

2017年末、私たちはソウルのローカルな食堂で肉が焼けるのを待っている。

目を合わせないよう外の寒さなどを思ってみたりして心を落ち着かせる。いや私は最初から落ち着いているではないか。ただの虚無だ。乗り越えよう。

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1ヶ月前、ソウルに集合がかかった。引越ししたばかりで先立つものが無くあまり乗り気では無かったのだが、チケットを取り情報を仕入れ準備を整える内に楽しみへと変わっていった。久しぶりの海外、といっても5ヶ月振りなのだけれど。

そうして出発まで3日というクリスマスのその日。私は病院にいた。数日前から微熱が続き滅多にしない頭痛がしていたのだ。

8年前がんの告知を受けたその病院で医師は溜めに溜めて私に告げた。

「インフルエンザですね」

がんの時と同じくらいのダメージ!確かに会社で流行っていた。十二分に気を付けていたはずなのに。願っても祈ってもどうしようもないことがある。久々に泣いた。神の意図を想った。

会うなというメッセージなのか、それとも乗り越えたその先に何かがあるのか。

 

3日後私は飛行機に乗っていた。微熱は平熱に戻っていた。しかし常識で考えれば行くべきではないのだろう。でも私はどうしても行きたかった。不可能かもしれないが、誰にも迷惑を掛けないように細心の注意を払った。 

ソウルに着いたが彼からの返信はない。いつものことだ。放置プレイ。ホテルだけは知っていたのでとりあえずフロントに荷物を預ける。待っていても誰も来ないので街へ出てみる。教会の十字架が見えた。教会へと続く階段を上ろうとした時、降りて来る人がいる。どこかで見たことがある。彼だ。ツインソウルだ。会いたいと願って止まない私のモンスター。

嗚呼、神様、これはどのような意図でしょうか。

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翌朝6時半、目覚ましが鳴る。彼がシャワーを浴びて出掛ける。外はまだ暗いのにどこに出掛けるのか謎過ぎるが私は眠った振りをする。8時過ぎに連絡があり近くのカフェにいるという。化粧もせずコートを着て急いで向かう。ツインソウル様はいつ気が変わるかわからないのだ。ブルーベリーベーグルを食べながら、彼は何か話しておくことないの?と言う。

話したいことは山ほどある気がする。日常の些細なことや私たちの関係の中で避けられないこと。頭を巡らす。うまく伝える自信が無い。発した言葉が誤解を生む恐怖。

私の人生、彼の人生それぞれ見て来たもの、感じて来たものは違う。言葉でわかりあうなんてきっと不可能だから。

信じる、それが大事なのだ。

彼の常套句「僕を信じないで」とはまた別ものだけれど。笑

彼はそのカフェから去っていった。勿論別行動だ。一瞬は悲しいが直ぐに癒える。私は忘れることがうまくなった。

私は明洞の教会にいる。ミサが行われている。私は牧師の韓国語を音楽のように聴く。人々の祈りは美しく私は目を閉じる。何故だか涙が溢れてくる。

 

せっかくソウルに来たのだから、というより彼と近くにいられるのだから、と私は玉砕覚悟で「一緒にどこかへ行きたい」と連絡をした。しかし結果は見事撃沈。私と一緒にいると頭が痛いと言う。

めげないめげない。

全部飲み込んでやる。

この世のすべての悲しみや苦しみを。

愛を以て昇華するのだ。

 

彼との思い出作りは一旦諦め東大門へと向かう。そうだ、私は買い物がしたかったのだと自分を奮い立たせる。小さな商店がひしめくデパートに無数の服が並べられている。立ち向かうにはそれなりのパワーが要る。今の私は彼と対峙するので精一杯。退散。

一応東大門に来たのだから東大門を見てみようと思いうろうろしてみたがそんなものは見当たらない。あくまで地名であってそんなものは無いのかもしれない。そう思って駅へ向かっていると彼から連絡があった。朝のカフェでケーキを食べようと思うのですが一人だと1種類しか食べれません、と。はい、呼び出し。即Chungmuro駅行きの地下鉄に乗り込む。私は彼に会えることが嬉しかった。ドメスティックバイオレンスを受ける人の感覚はこんな感じだろうか。少なくとも他人から見たらそうなのかもしれない。私は至って健全で純粋なつもりなのだが。

 

ソルトキャラメルとティラミスのケーキ、そしてグランデなコーヒーを分け合う。機嫌を取り戻したはずの彼の気持ちがまた曇った。ソウルで買ったと思われるBluetoothのイヤホンを耳にねじ込んでいる。私が向かい合わず隣に座りたいと言ったのがトリガーだったのだろうか。確認する術を私は持たない。そんなことを考えてもそもそも無意味なのだ。

彼は2つのケーキを1/3ずつ食べ残し、斜め前に座りなおした私の前に無言で差し出す。チェックのマフラーを巻き立ち上がった。私は胸が苦しくなる。一瞬の絶望。かっとなり、彼を傷つける言葉を探す。かすれた声で出てきた言葉が「焼肉は?」何とも情けない…。

彼は何も言わず立ち去った。

私は残されたケーキを放り投げたかった。出来る限り遠く、遠くに。

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私は救いを求めて携帯に言葉を残す。書くことで次第に自分を取り戻す。むしろ彼に感謝を告げたい程に。私の頭の中でMr.Childrenの「掌」がリフレインする。

抱いたはずが突き飛ばして 包むはずが切り刻んで

撫でるつもりが引っ掻いて また愛求める

解り合えたふりしたって 僕らは違った個体で

だけどひとつになりたくて 暗闇でもがいて もがいている

 

ホテルの部屋に戻り熱を計る。37度4分。きっと興奮したからだろう。すぐに冷める。ベッドに横になり目を閉じる。しばらくして携帯が鳴る。彼からだ。今から部屋に戻ります。一人になりたいです、と。行く宛ては無いがとりあえず私はコートを着て外に出る。こういった場面でも私は旅人であることを自覚する。旅人の嗅覚でローカルな店の立ち並ぶ路地を見つけ、熱のあることも寒いことも彼のことも忘れる程ワクワクした。地元のおじちゃん達が小さなちゃぶ台を囲んで焼酎を飲み何を語るのだろうか。

どのような人生にも輝きがあり目的がある。自覚しているかは別として。

私たちはそのどれも否定できない。そのすべてが美しいのだから。 

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彼から連絡があり私たちは世界でも指折りだというタワーへと向かった。ソウルにはソウルタワーしか無いと思っていた私はその高さに驚いた。高過ぎて怖さなど感じない。透明なガラス張りの床の上に立つ私を、彼は眺めていた。彼は決して透明な床の上には立たない。気が付けば1周回って同じ場所に彼は立っていて、ガラス張りの床の上で写真を撮る人々を眺めていた。その真意を量りかねていたが、どうやら単に高所恐怖症でそれを克服してみたいと思っていたようだ。かわいい。こんなにかわいいモンスターがあっていいのだろうか。彼は言う「僕は何でも怖いんだよ」と。

ホテルの近くまで戻る。彼はお腹が空いて気が立っている。私が先ほど興奮した通りを歩く。店はほぼ閉まりかけていた。私は彼の機嫌が悪くならないように祈る。他人の顔色を伺う自分はとても嫌いだ。

そうして冒頭の「目、合わせないで」に繋がる。でもお店のおばちゃんに対しては普通に優しさを以て接することが出来る彼。私だけに冷酷。大丈夫。私は愛を以てあらゆることに打克つことが出来るのだから。

半分どうにでもなれ!という気持ちで何事もなかったかのように彼に話し掛ける。おいしいねー、と。その言葉が着地点無く宙に漂うとしても気にせずに私は笑顔で語りかけるしかない。マッコリを彼が注いでくれた。それは優しさだろうか、周囲に対する目だろうか、ただ単に飲み切れないからだろうか。分らないけれど確かに言えることはマッコリが私の心を、彼の心を緩めたということ。酔うことは悪いことばかりではない。

そうして少しずつモンスターのトリセツはページを増やしていく。