Carpe diem -ツインソウルへの考察-

暫定ツインソウルの2人がそれぞれ感じていることを書き連ねます。

ロッベン、マインツ、ツインソウル

温かいコーヒーが空中に流れだしながら、紙コップは宙を舞っている。
私の投げたそれはまるでスローモーションのようにゆっくりと白い床に落ち大きな茶色いシミを作った。
ドイツ、マインツ駅。2月の土曜日の午後、パン屋さんの前でその事件は起きた。隣の花屋の植木鉢が置かれた鉄のラックにカップがはまっている。周囲の人たちは気が狂ったアジア人女を奇妙な目で見ている。
私はそんな視線に気づかぬフリをして足早にその場を去った。
私をそのような奇行に駆り立てた当の本人はパンに夢中でそのことを知りもしない。

その前日、私はドイツに住むツインソウルと共にブンデスリーガの試合を観戦していた。マインツバイエルンミュンヘンの試合。私は日本人の武藤よりも生ロッベンを間近に見て興奮した。サブのメンバーとしてウォームアップする彼の背中に男の哀愁を感じとった。とても寒かったがマインツのサポーターと共にビールを飲み、何より彼と好きなサッカーを一緒に観戦できたことが何より嬉しかった。結局、0-2でホームのマインツは破れた。

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帰路、あまりに寒くバス停まで歩きながらホットワインを買って飲む。冷え切った体に沁み渡る。ほろ酔いの私たちはホテルへ帰って抱き合い愛し合う。私、いや私か何なのかわからないその存在がふわっと舞い上がったまま一向に地面へ降りてこない。ただ幸福の中を漂っていた。満たされて私は壊れてしまうのかもしれないと思った。
それは今まで感じたことのない経験だった。
夢心地のまま眠っていたかったが、私たちは夜ごはんを食べに外へ出た。なかなか良さそうなところが見つからず彷徨っていたが、流行っているベトナム料理店を見つけて中に入った。フロアの店員は1人しかおらず、完全に回っていない。ビールを一つ注文して私たちは2つのグラスで分け合う。店に入って彼は必要最低限の言葉以外発していない。目も合わせない。私はどこかで地雷を踏んだのだろうか。考えてみるが思い当たらない。早朝のミュンヘンからここまで調子が良く、奇跡が起こるのかもしれないと甘く思っていたが、そうは問屋が卸さない。随分遅れて出されたココナッツミルクの入ったタイカレーを私たちは無言のまま食べる。窓の外を見やるとオレンジ色の街灯の下を仮装した人々が歩いていく。今日はカーニバルだという。楽しそうなその人たちと私たちのコントラストが心を妙に静かにする。それは自己防衛なのだろうか。レッドカレーの鶏肉が少し生っぽい。先ほどまであんなにも心が満たされ空腹を感じていたはずなのにもうお腹がいっぱいだ。彼はカレーを食べ終えると席を立ち、「先に帰る」と振り向きもせず夜の街に消えて行った。残された私は食べかけのカレーをじっと見つめる。1時間ほど前までの幸せとの落差に茫然とする。胸の奥がざわつき始め鼻の奥がつんとする。私はきゅっと口角を上げる。そうだ、楽しいことを考えよう。
ひっそりと店を出て、人のいなくなった夜の街を歩く。マインツの夜は中南米に比べたら安全で女性1人で歩いていても襲わる心配はなさそうだ。ただ後方に怪しげな人がいないかの確認は怠らない。それは私の本能のようなものだ。

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シャガールのステンドグラスのある教会へ足を向ける。坂の途中に小洒落たレストランがいくつかあり、どこも賑わっている。2月の週末の夜を恋人たちや友人たちが楽しんでいる。
何の感情も覚えない。感じないように努めているのか。
私はただ鼻息を白く棚引かせながら坂を上がっていく。
私は一体どこに来たのだろうか、そして私たちは一体どこへ向かうのだろうか。