Carpe diem -ツインソウルへの考察-

暫定ツインソウルの2人がそれぞれ感じていることを書き連ねます。

プルコギ、マッコリ、シンラツの行方

「一緒に居ても楽しくない。あなたは特別ではない。帰って婚活でもすればいい。」

ソウルの良く晴れた初夏の香りのする日曜日。ランチのプルコギとチヂミとマッコリを前にして、愛する男にそう言われている。一体、今、何が起きているのか。

……時間差!巨石で頭を殴られたような衝撃。痛いも痛くないもない。私は瀕死の状態でただ座ってなんとか息をしている。言葉など発せられない。

続けて彼は、昨日会っていたのは韓国に住んでいる福岡出身の同世代の日本人女性だと言う。知りたくもないことを彼の唇は発しているようだ。昨晩、私はひとりホテルの部屋で彼を待っていた。忠犬のように。夜の街へ出てみたがソウルに心惹かれるものは無かった。少なくともその時の私には。

彼女は美人で実家はお金持ちらしい。でも日本に居づらくなって韓国に来たような人だと彼は言い、あなたと同列だと言った。

「あなたは日本のつまらないOL。何の魅力も感じない。あなたと他の女性たちと違うところは唯一私たちには歴史があることだけ。13年の。でもそれもこの2年で消化した」

ここは日曜日の平和なレストランだ。しかし私の目からは滝のように涙が流れる。この場で叫んで消えてしまえたらどんなにか楽だろうと不思議と冷静に思い、願う。しかし、私は消えずにここにある。

数分前、挨拶と笑顔を交わした隣のシンガポール人の女の子たちはどんな目で私たちを見ているのだろうか。私はそちらを見やることができない。体中の水分のほとんどが流れ出していて、私はマッコリを飲む。私の僅かな胃にそれはじんわりと染み渡っていき、この惨状を少し柔らかに見せてくれる。

この世界にマッコリがあることを心から感謝した。

マッコリー!ありがとーーー!!!

私たちにはまだ生きるべき今がある。

マッコリが彼を少しずつ柔らかくしていった。そんなに怖がらなくてもいいんだよ。

 

私たちは食堂を出てバス停へと向かう。太陽が燦々と降り注いでいる。それなのに私は打ち震えていた。きっとこれは武者震いなのだろう。

私はもう空っぽでもう何が起こっても驚かない気がした。路線バスに乗り私たちは隣り合って座る。私たちはとても疲れていた。

Mr.Childrenの歌あったよね、と彼は言う。

「恥じらいがあった昨日よりさらけ出した今日の方がより 多少黄ばんでみえたりしてるけど愛しさはふえるよ」

 部屋へ戻って抱き合う。それはいつもより激しい。マッコリでまだ私たちの顔は紅潮している。私は彼のものを咥える。いとおしく思いそれを慈しむ。先ほど言われた酷い言葉など意味をなさない。今あるのは今ここのみなのだ。昨日も明日もない。私は彼を愛す。ただそれだけが今真実なのだ。今ここにある彼の優しさをただ疑わず信じる。言葉や観念などに意味は無い。ただ感じる。いつまでもいつまでも私は彼を感じていた。そうしてさらに空っぽになった。彼は私の口でいき、白濁したものを出した。その白濁したものは液体なのか疑わしいほどに重力に逆らって私に密着したままだった。シャワーを浴び、私はとてもからっぽで眠りたかったが、彼はひとりにさせてと言った。私は彼に頼まれた土産を買いに出る。明洞は人々でごった返していて私は無感情に歩く。十二分に大人であるのに、迷子みたいだ。

 土産を買ってホテルへ戻る。彼と合流してごはんを食べに行く。ホテルの側の店に入り、ソウル最後の晩餐。彼はサムギョプサルとマッコリを注文した。マッコリを注文してくれたことに私はほっとしていた。おばちゃんが流暢な日本語で話してかけてくれる。彼はそれにハングルで応える。昼のレストランとは違って平和な空気が流れる。互いに疲れていて言葉を発するのも億劫だったのかもしれない。 私は幸せな気持ちで彼を眺める。気持ち悪いと言われたが構わない。 また遠からずこの人に会える。そう私は確信している。一緒にいてもつまらないと言われたこの人にまた会いたいと私は願っている。

部屋へ戻り、彼は私にパッキングして欲しいと告げ彼自身はyoutubeを観始める。彼の匂いの染みついたTシャツ等を畳んで特大のスーツケースに詰めていく。私はなぜだか幸せを感じたていた。

そして突然彼はトレーニングするから11時まで帰ってこないで、と言った。

 しばらくエグゼクティブラウンジにいたが、明日の朝食の準備が始まっていよいよ居づらくなり私は外に出た。11時10分前。もうそろそろ帰ってもいいかなと思い部屋に戻ってみたが、U字ロックがかかっていて中には入れなかった。ホテルの外から部屋を見上げるが何の明かりも見えない。

行く宛てもなくセブンイレブンで、女の子が絵描かれた桃色の何味かわからないチューハイを買う。歩きながら路上でぷしゅっと缶を開け、口を付ける。甘ったるい液体が舌を包み喉を通っていく。そうだ、シティホールの前の芝生に行こう。日曜だと言うのに明洞の近くは若者で溢れている。昼間と違って人気のない芝生の上に私は座る。芝生はしっとりと夜露にぬれていた。シティホールのイルミネーションが誰もいないのに赤や黄色や緑や青に色を変える。私はこの旅を思い、彼のことを思った。恨みがましい気持ちなんて一切ない。マッコリ同様このチューハイがそう思わせてくれるのだろうか。

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スマートホンが光を放つ。

「もう寝ますよ。おやすみなさい」と彼からのメッセージ。

私はしばらくシティホールの七色に光を見ていた。明日の朝には日本か。