Carpe diem -ツインソウルへの考察-

暫定ツインソウルの2人がそれぞれ感じていることを書き連ねます。

マラソン、マインツ、ツインソウル

私は大雪の中、黒い合羽を着た男を追いかけ走っている。走る男の後姿に必死に喰らいつく。雪だか汗だかわからないもので全身びしょ濡れになってその男を追いかけまわしている。街のショーウィンドウに映り込んだ女の顔は紅潮し髪の毛が貼りつき、息が上がっている。

どうしてこんなことになったのか。 真っ白な道に彼の足跡が黒く残されていて私はそれをを踏みしめる。

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昨晩、放置されひとしきりマインツを徘徊した後、部屋に戻ると彼はそこにいた。彼は帰ってきた私に目もくれず寝る準備を整えている。彼には私が見えないのかもしれない。勇気を振り絞って彼に触れてみたが、氷点下40度の冷たさで拒絶された。 次の日の朝、普通に朝食の誘いを受けて驚いた。食欲は全くなかったが、彼に私が見えているという事実が嬉しくてパンを口に運び、コーヒーを飲む。まだ日が昇っておらず薄暗いと思っていた空は、どんよりと曇っている。今この瞬間にも雨粒が落ちてきそうだ。

食べ終わると彼は言う。

「昼のケルン行きの電車の時間まで僕は出掛けるから。駅集合で」 突然の幕引き。彼がいなくなったレストランで曇天の空を見上げる。

そうだ、シャガールのステンドグラスを見に行こう。マインツに来たいと思ったきっかけはそれをだったのだ。部屋へ戻ってリュックを背負いホテルの玄関を出ると雨が降り始めていた。傘は無い。そのまま私は街へ歩き出した。雨は霙になり、やがて水分を含んだ重たい雪になっていった。 昨晩と同じ坂道を登って目的の教会に着いた。教会の門扉は固く閉ざされている。振り返ると誰もいなかった白い周囲に人影がある。先ほどホテルを去って行った彼だ。私を避けるように彼は教会をぐるりと一周する。私も後を追う。スマホで位置確認のために立ち止った彼に「今日休みだったね」と平静を装って言うと沈黙が返ってくる。私の言葉は雪と一緒に路面に落ちて溶ける。いっそ私も溶けてなくなったらどんなに楽だろうか。 「ついてこないで」と吐き捨てられた彼の息は白かった。

本当についてこないでという意味なのか、拗ねているだけなのか、私には分かりかねて、溶けてなくなりそうもない私は彼を追って歩き出す。 最初は意地だったが、雪だか汗か涙かわからないものでぐちゃぐちゃになった私は何だか楽しくなってしまった。私は狂っているのだろうか。

彼は走りだした。私たちはじゃれているわけではない。本気で逃げて本気で追いかけているのだ。

現実離れした世界に心が躍る。いやそう思おうとしたのかもしれない。白いスニーカーが泥々になっている。ここで滑って怪我をしてはただ置いていかれるだけだ。転んではならない。

 

大きな通りへ出て彼は走り出す。私も走る。このために私はフルマラソンを走り鍛えていたのかもしれないと思った。見たことのある景色になったと思ったらホテルに辿り着いた。彼の後を追って部屋へ戻る。チェックアウトまであと僅か。ひとりになりたいと言われびしょ濡れの私はバスタオルで顔を拭い身体を拭い、先に部屋を出る。駅まで歩きコーヒーを買い、チェックアウトの時間にロビーの椅子に座り彼を待つ。普通の彼に戻ってくれていればいいなと願って。
ホテルをチェックアウトして目の前の駅に行く途中に言われた。

 

「僕は一緒にいたくない。これは希望ではなく、お願いだ。同じ電車にも乗りたくない。だから別の電車かバスで行って。30ユーロも出せばあるだろうから自分で調べて。本当はケルンの宿も一緒は嫌だけど、そこまでお金出せとは言えないから。僕はもう人のために電車の乗り場を調べたりするのは嫌だ。自分のためならできるけど、他人のためにはしたくない」
鈍器で頭を殴られたような衝撃。
「宝物だと感じた」そう言われたのは幻だったのだろうか。同じ唇で言ったとは到底思えない。

どこへ向けるべきかわからないそれは、抱えきれず、消化できない。

 

私の中でそれは、爆発的に増長して矛先がなくて、そしてカップが宙に舞っていた。

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ケルンへと向かう列車の中で日本から彼に持って来た豆大福を食べる。とても甘くて緑茶が飲みたくなる。そしてお母さんごめんなさいと謝りたくなった。せっかく産んでもらったのにこんな娘で。豆大福を食べながら号泣する40前の女。どうみたって怪しすぎる。そう思ったら笑えてきた。
私はまだ大丈夫だ。
人生泣き笑って誰かのために命を燃やし尽くしたい。