Carpe diem -ツインソウルへの考察-

暫定ツインソウルの2人がそれぞれ感じていることを書き連ねます。

中国語よりも大切なもの

なぜ自分がこのような状況に置かれているのか考えてみた。追い詰められたからこそ真剣になれる、自分の行動を振り返る絶好の機会として。

こちらに来てから「民度」という言葉を日々意識することととなった。この言葉はいままでしらなかったが、台湾に7年住む日本人から教えてもらった。確かに、と思う。日本やドイツと比べると、不快に感じることが多い。道を歩いていても、バスに乗っていても、食事をしていても。人のことを配慮していないと言えるのかもしれないし、振る舞いに品がないと言えるのかもしれない。それに加えて台湾はバイク天国。そもそも排気ガスだけで十分迷惑なのに、隙間があれば歩行者の間をすり抜けていくその様は、路上のゴキブリかと思えるほどに不快に感じる。

そういったことに対して平均的な日本人より敏感であろう私は、台湾を見下すような、台湾をばかにするような思いをよく持っていた。口に出したこともある。日本語だからわからないであろうということで、とくにバイクに乗った人たち向かって言葉を吐いた。そのような私の態度が、台湾にぼこぼこにされる事態を招いたのかもしれない。

ただ、これは、自業自得といった話ではない。あくまで魂の成長のためのイベント。

昨晩読んだ斎藤一人さんの本「神はからい」にも同じようなことが書かれていた。「病気になってグチや悪口をやめることでたちまち幸せにつながるって、心底わかった」みたいな体験談が書かれていた。それは魂が成長するタイミングでのお知らせであったと。

中国語をマスターすることを一つの大きな目的として台湾に来たものの、ここ1ヶ月は職探しと引っ越しのごたごたでほとんど勉強できなかった。そのことを不満に思っていたが、中国語をマスターするよりも大切な事があることを思い出した。魂の成長なくしては、中国語というスキルも活かせない。

台湾の皆さま、ごめんなさい。これからどうぞよろしくお願いいたします。

台湾でぼこぼこにされている

新北市のある会社に内定をもらって台湾に来たものの、諸事情により勤務できなくなった。急遽こちらで職探しをし、1週間で台北市内の勤務先を見つけた。

勤務地が変わることに伴い、新北市で契約した部屋を3週間だけ住んで、台北市内の部屋に移った。しかし、この部屋に問題が。古い14階建てビルの最上階。部屋の前にあるビルは、建物まるまるがエアコンの室外機のような装置であり(部屋の大家はVentilationと言っていた)、これが稼働している日中は部屋が振動する。音や振動に繊細は私はこの部屋では落ち着いて生活できないと判断し、その部屋を1週間だけ住んで、また別の部屋に移った。新しい部屋は、リビングルーム1つにベッドルーム2つ。建物自体は古いが、立地が良いせいか、そこそこの家賃設定。騒音、振動の問題がないことを十分確認して決めた部屋だったが、いざ入居し一人になってみるとリビングルームで落ち着けない。

怪しいと思っているのが電磁波。リビングルームの真横、玄関を出てすぐのところに、4階と5階の部屋のための配電盤がある。これが原因か、またはリビングルームの上部もしくは下部に送電線が配置されているか。原因は特定できていないが、リビングルームにいると私の体の中のお化けさんが反応し、これが固くなり体内のエネルギー循環に影響が出ているように感じる。

台北市内での2回の部屋探しは同僚に手伝ってもらい、大家との契約時にも立ち会ってもらった。もうこれ以上手間を取らせる訳にはいかない。そもそも、落ち着かない原因が振動ではなく電磁波といったところで、それを理解してもらえないであろうし、なんだこの日本人と思われてしまいそうなので相談することも憚られる。

10年ほど前に参加した瞑想合宿の主催者AKさんの言葉で、私は女性と住むところには恵まれている、という言葉がずっと残っている。それ以来自分もそうだなと思って生きてきて、実際に台湾に来る前に3年間過ごしたドイツでは住むところに関して大変恵まれていた。

なぜ台湾はこれほどまでに私をぼこぼこにするのだろうか。この数ヶ月、ツインソウルの片割れと思われる女性に連絡をとっていないからだろうか。

おかげで強くなっているような気がするし、モデルチェンジの時期が来ているのかもしれないとも思っている。天の計らいは人智の及ばないところなので、ただ一歩一歩前に進むしかない。

プルコギ、マッコリ、シンラツの行方

「一緒に居ても楽しくない。あなたは特別ではない。帰って婚活でもすればいい。」

ソウルの良く晴れた初夏の香りのする日曜日。ランチのプルコギとチヂミとマッコリを前にして、愛する男にそう言われている。一体、今、何が起きているのか。

……時間差!巨石で頭を殴られたような衝撃。痛いも痛くないもない。私は瀕死の状態でただ座ってなんとか息をしている。言葉など発せられない。

続けて彼は、昨日会っていたのは韓国に住んでいる福岡出身の同世代の日本人女性だと言う。知りたくもないことを彼の唇は発しているようだ。昨晩、私はひとりホテルの部屋で彼を待っていた。忠犬のように。夜の街へ出てみたがソウルに心惹かれるものは無かった。少なくともその時の私には。

彼女は美人で実家はお金持ちらしい。でも日本に居づらくなって韓国に来たような人だと彼は言い、あなたと同列だと言った。

「あなたは日本のつまらないOL。何の魅力も感じない。あなたと他の女性たちと違うところは唯一私たちには歴史があることだけ。13年の。でもそれもこの2年で消化した」

ここは日曜日の平和なレストランだ。しかし私の目からは滝のように涙が流れる。この場で叫んで消えてしまえたらどんなにか楽だろうと不思議と冷静に思い、願う。しかし、私は消えずにここにある。

数分前、挨拶と笑顔を交わした隣のシンガポール人の女の子たちはどんな目で私たちを見ているのだろうか。私はそちらを見やることができない。体中の水分のほとんどが流れ出していて、私はマッコリを飲む。私の僅かな胃にそれはじんわりと染み渡っていき、この惨状を少し柔らかに見せてくれる。

この世界にマッコリがあることを心から感謝した。

マッコリー!ありがとーーー!!!

私たちにはまだ生きるべき今がある。

マッコリが彼を少しずつ柔らかくしていった。そんなに怖がらなくてもいいんだよ。

 

私たちは食堂を出てバス停へと向かう。太陽が燦々と降り注いでいる。それなのに私は打ち震えていた。きっとこれは武者震いなのだろう。

私はもう空っぽでもう何が起こっても驚かない気がした。路線バスに乗り私たちは隣り合って座る。私たちはとても疲れていた。

Mr.Childrenの歌あったよね、と彼は言う。

「恥じらいがあった昨日よりさらけ出した今日の方がより 多少黄ばんでみえたりしてるけど愛しさはふえるよ」

 部屋へ戻って抱き合う。それはいつもより激しい。マッコリでまだ私たちの顔は紅潮している。私は彼のものを咥える。いとおしく思いそれを慈しむ。先ほど言われた酷い言葉など意味をなさない。今あるのは今ここのみなのだ。昨日も明日もない。私は彼を愛す。ただそれだけが今真実なのだ。今ここにある彼の優しさをただ疑わず信じる。言葉や観念などに意味は無い。ただ感じる。いつまでもいつまでも私は彼を感じていた。そうしてさらに空っぽになった。彼は私の口でいき、白濁したものを出した。その白濁したものは液体なのか疑わしいほどに重力に逆らって私に密着したままだった。シャワーを浴び、私はとてもからっぽで眠りたかったが、彼はひとりにさせてと言った。私は彼に頼まれた土産を買いに出る。明洞は人々でごった返していて私は無感情に歩く。十二分に大人であるのに、迷子みたいだ。

 土産を買ってホテルへ戻る。彼と合流してごはんを食べに行く。ホテルの側の店に入り、ソウル最後の晩餐。彼はサムギョプサルとマッコリを注文した。マッコリを注文してくれたことに私はほっとしていた。おばちゃんが流暢な日本語で話してかけてくれる。彼はそれにハングルで応える。昼のレストランとは違って平和な空気が流れる。互いに疲れていて言葉を発するのも億劫だったのかもしれない。 私は幸せな気持ちで彼を眺める。気持ち悪いと言われたが構わない。 また遠からずこの人に会える。そう私は確信している。一緒にいてもつまらないと言われたこの人にまた会いたいと私は願っている。

部屋へ戻り、彼は私にパッキングして欲しいと告げ彼自身はyoutubeを観始める。彼の匂いの染みついたTシャツ等を畳んで特大のスーツケースに詰めていく。私はなぜだか幸せを感じたていた。

そして突然彼はトレーニングするから11時まで帰ってこないで、と言った。

 しばらくエグゼクティブラウンジにいたが、明日の朝食の準備が始まっていよいよ居づらくなり私は外に出た。11時10分前。もうそろそろ帰ってもいいかなと思い部屋に戻ってみたが、U字ロックがかかっていて中には入れなかった。ホテルの外から部屋を見上げるが何の明かりも見えない。

行く宛てもなくセブンイレブンで、女の子が絵描かれた桃色の何味かわからないチューハイを買う。歩きながら路上でぷしゅっと缶を開け、口を付ける。甘ったるい液体が舌を包み喉を通っていく。そうだ、シティホールの前の芝生に行こう。日曜だと言うのに明洞の近くは若者で溢れている。昼間と違って人気のない芝生の上に私は座る。芝生はしっとりと夜露にぬれていた。シティホールのイルミネーションが誰もいないのに赤や黄色や緑や青に色を変える。私はこの旅を思い、彼のことを思った。恨みがましい気持ちなんて一切ない。マッコリ同様このチューハイがそう思わせてくれるのだろうか。

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スマートホンが光を放つ。

「もう寝ますよ。おやすみなさい」と彼からのメッセージ。

私はしばらくシティホールの七色に光を見ていた。明日の朝には日本か。

マラソン、マインツ、ツインソウル

私は大雪の中、黒い合羽を着た男を追いかけ走っている。走る男の後姿に必死に喰らいつく。雪だか汗だかわからないもので全身びしょ濡れになってその男を追いかけまわしている。街のショーウィンドウに映り込んだ女の顔は紅潮し髪の毛が貼りつき、息が上がっている。

どうしてこんなことになったのか。 真っ白な道に彼の足跡が黒く残されていて私はそれをを踏みしめる。

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昨晩、放置されひとしきりマインツを徘徊した後、部屋に戻ると彼はそこにいた。彼は帰ってきた私に目もくれず寝る準備を整えている。彼には私が見えないのかもしれない。勇気を振り絞って彼に触れてみたが、氷点下40度の冷たさで拒絶された。 次の日の朝、普通に朝食の誘いを受けて驚いた。食欲は全くなかったが、彼に私が見えているという事実が嬉しくてパンを口に運び、コーヒーを飲む。まだ日が昇っておらず薄暗いと思っていた空は、どんよりと曇っている。今この瞬間にも雨粒が落ちてきそうだ。

食べ終わると彼は言う。

「昼のケルン行きの電車の時間まで僕は出掛けるから。駅集合で」 突然の幕引き。彼がいなくなったレストランで曇天の空を見上げる。

そうだ、シャガールのステンドグラスを見に行こう。マインツに来たいと思ったきっかけはそれをだったのだ。部屋へ戻ってリュックを背負いホテルの玄関を出ると雨が降り始めていた。傘は無い。そのまま私は街へ歩き出した。雨は霙になり、やがて水分を含んだ重たい雪になっていった。 昨晩と同じ坂道を登って目的の教会に着いた。教会の門扉は固く閉ざされている。振り返ると誰もいなかった白い周囲に人影がある。先ほどホテルを去って行った彼だ。私を避けるように彼は教会をぐるりと一周する。私も後を追う。スマホで位置確認のために立ち止った彼に「今日休みだったね」と平静を装って言うと沈黙が返ってくる。私の言葉は雪と一緒に路面に落ちて溶ける。いっそ私も溶けてなくなったらどんなに楽だろうか。 「ついてこないで」と吐き捨てられた彼の息は白かった。

本当についてこないでという意味なのか、拗ねているだけなのか、私には分かりかねて、溶けてなくなりそうもない私は彼を追って歩き出す。 最初は意地だったが、雪だか汗か涙かわからないものでぐちゃぐちゃになった私は何だか楽しくなってしまった。私は狂っているのだろうか。

彼は走りだした。私たちはじゃれているわけではない。本気で逃げて本気で追いかけているのだ。

現実離れした世界に心が躍る。いやそう思おうとしたのかもしれない。白いスニーカーが泥々になっている。ここで滑って怪我をしてはただ置いていかれるだけだ。転んではならない。

 

大きな通りへ出て彼は走り出す。私も走る。このために私はフルマラソンを走り鍛えていたのかもしれないと思った。見たことのある景色になったと思ったらホテルに辿り着いた。彼の後を追って部屋へ戻る。チェックアウトまであと僅か。ひとりになりたいと言われびしょ濡れの私はバスタオルで顔を拭い身体を拭い、先に部屋を出る。駅まで歩きコーヒーを買い、チェックアウトの時間にロビーの椅子に座り彼を待つ。普通の彼に戻ってくれていればいいなと願って。
ホテルをチェックアウトして目の前の駅に行く途中に言われた。

 

「僕は一緒にいたくない。これは希望ではなく、お願いだ。同じ電車にも乗りたくない。だから別の電車かバスで行って。30ユーロも出せばあるだろうから自分で調べて。本当はケルンの宿も一緒は嫌だけど、そこまでお金出せとは言えないから。僕はもう人のために電車の乗り場を調べたりするのは嫌だ。自分のためならできるけど、他人のためにはしたくない」
鈍器で頭を殴られたような衝撃。
「宝物だと感じた」そう言われたのは幻だったのだろうか。同じ唇で言ったとは到底思えない。

どこへ向けるべきかわからないそれは、抱えきれず、消化できない。

 

私の中でそれは、爆発的に増長して矛先がなくて、そしてカップが宙に舞っていた。

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ケルンへと向かう列車の中で日本から彼に持って来た豆大福を食べる。とても甘くて緑茶が飲みたくなる。そしてお母さんごめんなさいと謝りたくなった。せっかく産んでもらったのにこんな娘で。豆大福を食べながら号泣する40前の女。どうみたって怪しすぎる。そう思ったら笑えてきた。
私はまだ大丈夫だ。
人生泣き笑って誰かのために命を燃やし尽くしたい。

ロッベン、マインツ、ツインソウル

温かいコーヒーが空中に流れだしながら、紙コップは宙を舞っている。
私の投げたそれはまるでスローモーションのようにゆっくりと白い床に落ち大きな茶色いシミを作った。
ドイツ、マインツ駅。2月の土曜日の午後、パン屋さんの前でその事件は起きた。隣の花屋の植木鉢が置かれた鉄のラックにカップがはまっている。周囲の人たちは気が狂ったアジア人女を奇妙な目で見ている。
私はそんな視線に気づかぬフリをして足早にその場を去った。
私をそのような奇行に駆り立てた当の本人はパンに夢中でそのことを知りもしない。

その前日、私はドイツに住むツインソウルと共にブンデスリーガの試合を観戦していた。マインツバイエルンミュンヘンの試合。私は日本人の武藤よりも生ロッベンを間近に見て興奮した。サブのメンバーとしてウォームアップする彼の背中に男の哀愁を感じとった。とても寒かったがマインツのサポーターと共にビールを飲み、何より彼と好きなサッカーを一緒に観戦できたことが何より嬉しかった。結局、0-2でホームのマインツは破れた。

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帰路、あまりに寒くバス停まで歩きながらホットワインを買って飲む。冷え切った体に沁み渡る。ほろ酔いの私たちはホテルへ帰って抱き合い愛し合う。私、いや私か何なのかわからないその存在がふわっと舞い上がったまま一向に地面へ降りてこない。ただ幸福の中を漂っていた。満たされて私は壊れてしまうのかもしれないと思った。
それは今まで感じたことのない経験だった。
夢心地のまま眠っていたかったが、私たちは夜ごはんを食べに外へ出た。なかなか良さそうなところが見つからず彷徨っていたが、流行っているベトナム料理店を見つけて中に入った。フロアの店員は1人しかおらず、完全に回っていない。ビールを一つ注文して私たちは2つのグラスで分け合う。店に入って彼は必要最低限の言葉以外発していない。目も合わせない。私はどこかで地雷を踏んだのだろうか。考えてみるが思い当たらない。早朝のミュンヘンからここまで調子が良く、奇跡が起こるのかもしれないと甘く思っていたが、そうは問屋が卸さない。随分遅れて出されたココナッツミルクの入ったタイカレーを私たちは無言のまま食べる。窓の外を見やるとオレンジ色の街灯の下を仮装した人々が歩いていく。今日はカーニバルだという。楽しそうなその人たちと私たちのコントラストが心を妙に静かにする。それは自己防衛なのだろうか。レッドカレーの鶏肉が少し生っぽい。先ほどまであんなにも心が満たされ空腹を感じていたはずなのにもうお腹がいっぱいだ。彼はカレーを食べ終えると席を立ち、「先に帰る」と振り向きもせず夜の街に消えて行った。残された私は食べかけのカレーをじっと見つめる。1時間ほど前までの幸せとの落差に茫然とする。胸の奥がざわつき始め鼻の奥がつんとする。私はきゅっと口角を上げる。そうだ、楽しいことを考えよう。
ひっそりと店を出て、人のいなくなった夜の街を歩く。マインツの夜は中南米に比べたら安全で女性1人で歩いていても襲わる心配はなさそうだ。ただ後方に怪しげな人がいないかの確認は怠らない。それは私の本能のようなものだ。

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シャガールのステンドグラスのある教会へ足を向ける。坂の途中に小洒落たレストランがいくつかあり、どこも賑わっている。2月の週末の夜を恋人たちや友人たちが楽しんでいる。
何の感情も覚えない。感じないように努めているのか。
私はただ鼻息を白く棚引かせながら坂を上がっていく。
私は一体どこに来たのだろうか、そして私たちは一体どこへ向かうのだろうか。

ソウル日記②

セックス90%の女。

彼にとって私はそうであるらしい。

Chungmuro駅近くのカフェで面と向かって言われた。正直過ぎるのは罪だ。

まあ胃がんの告知に比べればかわいいもの、だ。

相対的に考えればいいのだ。人生で言われたくなかった言葉ベスト10くらいには入るだろうが。

直ぐに私は脳の中からこの事実を消去した。

そうだ、私は今ソウルにいて大好きなこの人と嬉しい旅をしているのだ。

 

ソウルでの最後の1日。カフェで1日の予定を問われる。勿論私たちは1人称だ。

自由を愛するこの私に予定などある訳ないが何か言わねばと、チムチルバンへ行こうと思いますと答える。

「僕も行きたい」と彼は言う。

チムチルバンのチョイスの宿題をもらい解散する。

私はまた教会へ向かう。

人々の祈りの中で私は癒される。そうか、私は傷ついていたのか。

はい、昇華!

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ここにいるクリスチャン、ムスリム仏教徒、それぞれの哲学、色んな歩みが有ろうとも結局は同じところを目指しているのだ。

私の尊敬する人が言った「違いを優劣で判断すべきではない」と。

色んな価値観を私たちは認め合って生きていく。

Mr.Children「掌」にまた繋がった。

 

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彼と連絡を取り、夕方ホテルで待ち合わせをした。チムチルバンへ行くため。ホテルのロビーへ行くと彼が既にいて既に不機嫌だった。

心の中でふぅと一旦溜め息をつき、口角を上げ、速足の彼の後を追う。

朝、触れ合った時は優しい目をしていたのに…。

無言で地下鉄に乗り、龍山駅で降り無言でドラゴンヒルスパへ向かう。それぞれ会計をして、下駄箱の前で彼は言う。

「僕は1時間後には出る。先に帰るかもしれない。そのまま空港へ行くかもしれない。お互い何も預けている荷物なんかないよね?じゃ。」

ん?

今生での最後になるかもしれないってこと?

それをそんなにさらりと鬼のような目で言うの?

慣れるわけなどない。

1年分の寿命をそこで縮める。一体私は何年分の寿命を縮めればいいのか。

普通の人なら即死レベルだ。

年末のからの疲れを私は癒したかった。私は熱があるのだ。ゆっくりさせてくれ!

なのに私は100秒ほどお湯に浸かっただけ。

1時間のうちに髪を乾かして化粧水をつけ軽く化粧をしなければならないのだ。そうしてフロントの硬い椅子に座って彼を待つ。ちょうど1時間しか経っていないから彼はまだ中にいるはずだ。忠犬ハチ公のように私は石になって彼を待つ。同じ椅子に座る人たちが、恋人や家族や友達に再会して一緒に立ち去っていく。私は心を無にして彼を待った。私はとても疲れていて、目を閉じた。

目を開けて握りしめていた携帯を見ると、「今から帰ります」と彼からの通知。

今男湯から出たのか、店自体から出たのか、わからず彼に確認をするが連絡は無し。

15分待ったが一向に出てくる気配がないので私は諦めた。

私の前を通らなければ、外にでることは叶わないはずなのに。

存在を知りながら、よく私の前を素通りできたものだ。

彼の中にいる鬼と私は対峙しているのだ。

 

雨の中、私は迷った。地下鉄の駅がどこにあるのかわからない。デパートの前でで雨宿りをしていた配送業の男性に声を掛ける。地下鉄の駅はどこですか?と。彼は親切に教えてくれる。人の優しさが身に染みる。細胞まで染みわたっていく。しかも彼は美しい顔をしているのだ。

「イケメン♪イケメン♪」と自分を鼓舞して指し示された地下鉄の駅へ向かう。

最寄の駅に着き、駅を上がったところにある彼が好きなカフェに寄って彼を探す。勿論いない。私、バカだなと自分をせせら笑って急いでホテルへ戻る。一歩一歩彼が居ますように、と願いながら。

前髪を正して息を飲んでフロントの自動ドアをくぐる。

そこには彼がいてやたら大きなスーツケースの荷物をまとめていた。

ほっとした。

そんな想いを見せず私は普通を取り繕った。

「僕は今から空港へ向かいます」と彼は一人称で宣言した。

「私も行く」と私は言った。

仕方無いという風に彼はスーツケースを転がして外へ出た。バックパックを背負った私は彼の後姿を追いかける。

地下鉄に向かうかと思っていたが、別の方向へ彼は向かう。何か言って機嫌を損ねるのは嫌だから私は無言のまま彼の後を追いかける。バス停で彼は立ち止り携帯を見る。そして私にその画面を見せる。複数の数字の羅列。バスの番号のようだ。「覚えて」と彼は言う。

バスが来て私たちは乗り込む。別々の席に座る。

明洞駅を初めて見た。私はソウルにいて何も見ていなかった気がした。近くにこんなに華やかな世界があったなんて、と。

ソウル駅が見える距離にきたのに、バスはそこを離れていく。私たちはバスの通路越しに目を合わせた。大丈夫?と。数分後またソウル駅へ近づき私たちは目を合わせ、うん、と互いに頷いた。そういう細やかなことで私は幸せを感じた。

駅で彼は気が向いたのか数秒だけ手を繋いでくれた。とてもとても嬉しかった。この旅で乗り越えた試練のご褒美だ。この旅で寿命を3年程縮めたが本望だ!

私たちの時間はもう残り少ない。

次会えるかどうか誰も分からないのだから。

プルコギとビビンバとマッコリ。

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それが私たちの心を緩める。

彼は酔った勢いで元オクサンについて語り始める。

彼はいつも奥さんが~と語り始める。「元オクサンだろうがっ!」と心の中で突っ込みながら私は聞く。

彼は、今、面と向かっている私と比較し、その旨告げる。本当は私はあなたの過去など知りたくもないのだけれど。

彼は元オクを「不潔だ」と罵った。

そこまで感情を剥き出しにできるのはまだ何かが残っている証拠だ。

彼が数年間病気で引きこもっている間、彼女は彼を支えていたし、彼はある意味彼女を支えていたのだろう。彼曰く、経済的にも肉体的にも自由がきかない状態で抑え込まれていた、と。彼女の正論が彼を追い込む。

今の彼のモンスターの片鱗を作ったのは彼女だったのかもしれない。そういった意味では彼女は「モンスターオブモンスター」だ。

二人のことは二人にしかわからない。

私は彼女のことは純粋に尊敬している。会ったこともないその彼女のことを。

彼女は今彼女の人生を生きているらしい。

良かったと思う。彼女は幸せになるべき人だ。

そして、彼もモトオクを浄化しなければならない。

 

 「他人を変えることはできない。

 苛々するのは自分の思う通りにならないから。

 自分がいかに正しいかを主張しても相手には響かない。

 むしろ頑なになるだろう。

 正しいことなど人それぞれだ。

   マジョリティとかマイノリティでもないし。

 欲するならただ自分が変わればいい。」

 

私の中の誰かがそう告げる。

YES。正論で人の心は動かない。

 

太陽と北風なら、私は太陽でありたい。

ソウル日記 ①

「こっちを見ないで。目を合わせないで。喋りたくない。」

冷酷な目でそんなことを言われる。冗談ではないことは私にも分かる。

2017年末、私たちはソウルのローカルな食堂で肉が焼けるのを待っている。

目を合わせないよう外の寒さなどを思ってみたりして心を落ち着かせる。いや私は最初から落ち着いているではないか。ただの虚無だ。乗り越えよう。

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1ヶ月前、ソウルに集合がかかった。引越ししたばかりで先立つものが無くあまり乗り気では無かったのだが、チケットを取り情報を仕入れ準備を整える内に楽しみへと変わっていった。久しぶりの海外、といっても5ヶ月振りなのだけれど。

そうして出発まで3日というクリスマスのその日。私は病院にいた。数日前から微熱が続き滅多にしない頭痛がしていたのだ。

8年前がんの告知を受けたその病院で医師は溜めに溜めて私に告げた。

「インフルエンザですね」

がんの時と同じくらいのダメージ!確かに会社で流行っていた。十二分に気を付けていたはずなのに。願っても祈ってもどうしようもないことがある。久々に泣いた。神の意図を想った。

会うなというメッセージなのか、それとも乗り越えたその先に何かがあるのか。

 

3日後私は飛行機に乗っていた。微熱は平熱に戻っていた。しかし常識で考えれば行くべきではないのだろう。でも私はどうしても行きたかった。不可能かもしれないが、誰にも迷惑を掛けないように細心の注意を払った。 

ソウルに着いたが彼からの返信はない。いつものことだ。放置プレイ。ホテルだけは知っていたのでとりあえずフロントに荷物を預ける。待っていても誰も来ないので街へ出てみる。教会の十字架が見えた。教会へと続く階段を上ろうとした時、降りて来る人がいる。どこかで見たことがある。彼だ。ツインソウルだ。会いたいと願って止まない私のモンスター。

嗚呼、神様、これはどのような意図でしょうか。

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翌朝6時半、目覚ましが鳴る。彼がシャワーを浴びて出掛ける。外はまだ暗いのにどこに出掛けるのか謎過ぎるが私は眠った振りをする。8時過ぎに連絡があり近くのカフェにいるという。化粧もせずコートを着て急いで向かう。ツインソウル様はいつ気が変わるかわからないのだ。ブルーベリーベーグルを食べながら、彼は何か話しておくことないの?と言う。

話したいことは山ほどある気がする。日常の些細なことや私たちの関係の中で避けられないこと。頭を巡らす。うまく伝える自信が無い。発した言葉が誤解を生む恐怖。

私の人生、彼の人生それぞれ見て来たもの、感じて来たものは違う。言葉でわかりあうなんてきっと不可能だから。

信じる、それが大事なのだ。

彼の常套句「僕を信じないで」とはまた別ものだけれど。笑

彼はそのカフェから去っていった。勿論別行動だ。一瞬は悲しいが直ぐに癒える。私は忘れることがうまくなった。

私は明洞の教会にいる。ミサが行われている。私は牧師の韓国語を音楽のように聴く。人々の祈りは美しく私は目を閉じる。何故だか涙が溢れてくる。

 

せっかくソウルに来たのだから、というより彼と近くにいられるのだから、と私は玉砕覚悟で「一緒にどこかへ行きたい」と連絡をした。しかし結果は見事撃沈。私と一緒にいると頭が痛いと言う。

めげないめげない。

全部飲み込んでやる。

この世のすべての悲しみや苦しみを。

愛を以て昇華するのだ。

 

彼との思い出作りは一旦諦め東大門へと向かう。そうだ、私は買い物がしたかったのだと自分を奮い立たせる。小さな商店がひしめくデパートに無数の服が並べられている。立ち向かうにはそれなりのパワーが要る。今の私は彼と対峙するので精一杯。退散。

一応東大門に来たのだから東大門を見てみようと思いうろうろしてみたがそんなものは見当たらない。あくまで地名であってそんなものは無いのかもしれない。そう思って駅へ向かっていると彼から連絡があった。朝のカフェでケーキを食べようと思うのですが一人だと1種類しか食べれません、と。はい、呼び出し。即Chungmuro駅行きの地下鉄に乗り込む。私は彼に会えることが嬉しかった。ドメスティックバイオレンスを受ける人の感覚はこんな感じだろうか。少なくとも他人から見たらそうなのかもしれない。私は至って健全で純粋なつもりなのだが。

 

ソルトキャラメルとティラミスのケーキ、そしてグランデなコーヒーを分け合う。機嫌を取り戻したはずの彼の気持ちがまた曇った。ソウルで買ったと思われるBluetoothのイヤホンを耳にねじ込んでいる。私が向かい合わず隣に座りたいと言ったのがトリガーだったのだろうか。確認する術を私は持たない。そんなことを考えてもそもそも無意味なのだ。

彼は2つのケーキを1/3ずつ食べ残し、斜め前に座りなおした私の前に無言で差し出す。チェックのマフラーを巻き立ち上がった。私は胸が苦しくなる。一瞬の絶望。かっとなり、彼を傷つける言葉を探す。かすれた声で出てきた言葉が「焼肉は?」何とも情けない…。

彼は何も言わず立ち去った。

私は残されたケーキを放り投げたかった。出来る限り遠く、遠くに。

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私は救いを求めて携帯に言葉を残す。書くことで次第に自分を取り戻す。むしろ彼に感謝を告げたい程に。私の頭の中でMr.Childrenの「掌」がリフレインする。

抱いたはずが突き飛ばして 包むはずが切り刻んで

撫でるつもりが引っ掻いて また愛求める

解り合えたふりしたって 僕らは違った個体で

だけどひとつになりたくて 暗闇でもがいて もがいている

 

ホテルの部屋に戻り熱を計る。37度4分。きっと興奮したからだろう。すぐに冷める。ベッドに横になり目を閉じる。しばらくして携帯が鳴る。彼からだ。今から部屋に戻ります。一人になりたいです、と。行く宛ては無いがとりあえず私はコートを着て外に出る。こういった場面でも私は旅人であることを自覚する。旅人の嗅覚でローカルな店の立ち並ぶ路地を見つけ、熱のあることも寒いことも彼のことも忘れる程ワクワクした。地元のおじちゃん達が小さなちゃぶ台を囲んで焼酎を飲み何を語るのだろうか。

どのような人生にも輝きがあり目的がある。自覚しているかは別として。

私たちはそのどれも否定できない。そのすべてが美しいのだから。 

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彼から連絡があり私たちは世界でも指折りだというタワーへと向かった。ソウルにはソウルタワーしか無いと思っていた私はその高さに驚いた。高過ぎて怖さなど感じない。透明なガラス張りの床の上に立つ私を、彼は眺めていた。彼は決して透明な床の上には立たない。気が付けば1周回って同じ場所に彼は立っていて、ガラス張りの床の上で写真を撮る人々を眺めていた。その真意を量りかねていたが、どうやら単に高所恐怖症でそれを克服してみたいと思っていたようだ。かわいい。こんなにかわいいモンスターがあっていいのだろうか。彼は言う「僕は何でも怖いんだよ」と。

ホテルの近くまで戻る。彼はお腹が空いて気が立っている。私が先ほど興奮した通りを歩く。店はほぼ閉まりかけていた。私は彼の機嫌が悪くならないように祈る。他人の顔色を伺う自分はとても嫌いだ。

そうして冒頭の「目、合わせないで」に繋がる。でもお店のおばちゃんに対しては普通に優しさを以て接することが出来る彼。私だけに冷酷。大丈夫。私は愛を以てあらゆることに打克つことが出来るのだから。

半分どうにでもなれ!という気持ちで何事もなかったかのように彼に話し掛ける。おいしいねー、と。その言葉が着地点無く宙に漂うとしても気にせずに私は笑顔で語りかけるしかない。マッコリを彼が注いでくれた。それは優しさだろうか、周囲に対する目だろうか、ただ単に飲み切れないからだろうか。分らないけれど確かに言えることはマッコリが私の心を、彼の心を緩めたということ。酔うことは悪いことばかりではない。

そうして少しずつモンスターのトリセツはページを増やしていく。